欧州の自動車メーカーが口火を切った直噴ダウンサイジング・ターボエンジン。ダウンサイジング・ターボエンジンのコンセプトは主に燃費向上。
これは、エンジンの排気量を下げる、気筒数を減らす、あるいは、これら両方を採用することで燃費の向上を図り、トルク不足を過給機で補う設計思想。
アメ車もダウンサイジング・ターボ化の流れに追従し、日本もハイブリッドのみならず、ラインアップに直噴ダウンサイジング・ターボエンジンの搭載車を加えてきました。
では、直噴ダウンサイジング・ターボエンジンの特徴とメリット、デメリットについて呟いてみます。
日本を巻き込み、総ダウンサイジング化
当初、フォルクスワーゲンはゴルフのエンジンにターボとスーパーチャージャーのダブル過給機を採用していました。
当時、メルセデスはスーパーチャージャーを採用していたものの、より燃費向上の効果が高いターボに切り替えていきました。
米国の各自動車メーカーもこの流れに追従し、V8エンジンをV6へ、V6エンジンを直4エンジンに換装し、ターボを装着することでダウンサイジングのトレンドの波に乗ってきました。
片や、日本勢は2009年以降、ハイブリッドカー一色だったこともあり、世界の潮流に4~5年ほど遅れてダウンサイジング・ターボエンジンをラインアップに加え始めたのです。
かつての日本のターボ車
かつて、日本車に搭載されていたターボエンジンは明確なターボラグがあり、ノッキング対策で圧縮比を下げ、ガソリン冷却が過剰でした。
昔のターボ車は低回転域でエンジントルクが細く、エンジン回転が上昇すると一気に加速するターボ車らしいキャラクターでした。
当時のターボ車は過給圧が高まると「ドカーン」と加速するため、ドッカンターボと言われ、ターボ車愛好家から強く支持されていました。ドッカンターボ車は車体がワープするような痛快さがあります。
しかし、ドッカンターボは排気ガス規制の問題からも、市場から姿を消していったのでした。
直噴ダウンサイジング・ターボエンジンのメリット
直噴ダウンサイジングターボエンジンはターボを装着し、高価な高圧インジェクターを搭載しているため、明らかにコスト高。
それにもかかわらず、欧州勢がダウンサイジング・ターボエンジンを採用している理由として、長所は1つだけではなく、いくつかのメリットがあるからです。
燃費向上
V8エンジンをV6へ、V6エンジンを直4へダウンサイジングし、排気量を下げることで明らかに燃費向上の効果があります。
アイドリング燃費はエンジンの気筒数が少なく、排気量が小さいほど良くなります。
直噴エンジンの場合、ECUが高圧インジェクターをきめ細かくコントロールすることで、シリンダー内の空燃比をコントロールできます。走行状態に応じて燃料の噴射をコントロールできるため、燃費向上に繋がります。
また、直噴エンジンはポンピングロスが低減できるため、これも燃費向上に寄与します。
直噴ダウンサイジングターボエンジンは交通の流れのいい郊外や高速道路でメリットを発揮しやすくなります。
ポンピングロスの低減
従来型ガソリンエンジンの場合、燃料噴射装置が吸気バルブの手前でガソリンを噴射して、空気と混ざり合います。スロットル開度が小さい(アクセルペダルの踏み込み量が小さい)時、スロットルバルブの開度は僅か。
言わば、これは喉(のど)を絞められて空気を吸っているような状態。
これがポンピングロスとなるため、ピストンエンジンにとってエネルギー損失となり、燃費悪化の原因になります。
他方、直噴エンジンの場合、高圧インジェクターがシリンダー内に直接、燃料をきめ細かく噴射します。これにより、ポンピングロスの減少に繋がります。
パワー&トルクアップ
直噴ダウンサイジング・ターボエンジンには比較的、小径のタービンが搭載されています。それでも、排気ガスでタービンを回すターボエンジンならではのパワー&トルクアップが簡単に実現します。
メルセデスCクラス、W204の加速感はとても1,800ccエンジンとは思えないほど。そして、CクラスのW205はDOHC 2,000ccエンジンにターボを装着し、実用性を重視したトルク感あるエンジン。
ターボエンジンの場合、ターボが強制的にシリンダー内により多くの空気(酸素)を押し込むことができます。これがターボの長所。
実は、ターボの過給効果は小排気量エンジンより、大排気量エンジンの方が断然高まります。
これは、大排気量エンジンほど、シリンダー内で燃料が爆発後に排出される排気ガスの量が多いため。
V型12気筒、6,000ccの大排気量エンジンのエキマニから排出される排気ガスの量は4気筒、1,800ccエンジンのエキマニから排出される排気ガスの3倍以上。
よって、大排気量エンジンに大径タービンを取り付けても、ビュンビュン回すことができます。
もうこれ以上、パワーもトルクもいらないのでは?といった大排気量エンジンほどターボとの相性が良く、太い地トルクで重い車体を軽々と発進させ、あたかも離陸するような加速で疾走します。
例えば、メルセデス・ベンツSクラスに搭載されているV12、6,000ccツインターボエンジンは重量級のボディをゼロヨン12秒台で加速させる凄まじさ。
バイク乗りであれば、ゼロヨン12秒台はどうってこと無い世界。しかし、バイクの経験が無いドライバーにとって、ゼロヨン12秒台の加速は脅威かもしれません。
ターボエンジンの仕組み
時代の流れとして、小排気量エンジンにターボを組み込んで燃費とパワーの両立が求められています。だからこそ、直噴ダウンサイジングターボエンジンがメインストリームなのでしょう。
エンジンの排気量に関わらず、ターボエンジンは可変容量的なエンジンと解釈してもいいでしょう。
ちなみに、NAエンジンが吸気ポートから吸い込むことができる空気の量には限界があります。NAエンジンの最高出力を上げるためには排気量を増やすか、ハイカムシャフトを組み込んでエンジンのMax回転数を上げるしかありません。
確かにNAエンジンはレスポンスが良く、ドライバビリティがいいメリットがあります。NAエンジンは右足のアクセルペダルの踏み込み量に比例してパワーが高まっていく気持ちよさがあります。
しかし、従来の技術で小排気量NAエンジンにターボ以外のコストを掛けても、劇的なパワーアップは容易ではなく、また、実用性を損ねてしまいます。
圧縮比のアップ
直噴ダウンサイジングターボエンジンの高圧インジェクターが燃料を筒内噴射するため、シリンダーの冷却効果が大きく、ノッキングを起こしにくい長所があります。
よって、直噴ターボエンジンはターボエンジンでありながら、通常のエンジンレベルまで圧縮比を上げることができるのが特徴です。
日本の場合、自動車税の軽減
メルセデスのC200(W204)のエンジンは1,800ccで184PS/5,250rpm、27.5kgm/1,800~4,600rpmというパワーとトルクを出力します。
メルセデスC200(W205)のエンジンスペックは2,000ccで184PS、30.6kgm。
エンジンの最大トルクが27.5kgmならば、2,800ccクラスのV6、NAエンジンに匹敵する性能。2,800ccのエンジンなら、自動車税の区分は2,500cc超~3,000cc以下に入るため、自動車税は51,000円。
CクラスW204の排気量は1,800ccのため、自動車税は「39,500円」で済みます。
直噴ダウンサイジング・ターボエンジンのデメリット
自動車は工業製品である以上、欠点の1つや2つはあるもの。もちろん、直噴ダウンサイジング・ターボエンジンにもデメリットはあります。
ターボラグ
当然、小径のターボタービンは大径タービンよりもターボラグが少なくなります。
今まで、各自動車メーカーはターボラグ対策を研究し、様々な技術が開発されてきました。しかし、小径タービンであってもターボラグをゼロにすることは不可能なのです。
なぜなら、空気とターボタービンのどちらが重いかは言うまでもありません。
仮に、ニッケル系合金で製作した風車(風車の弥七(やしち)が使うような風車)に息を吹きかけたら、どうなるか想像してみてください。合金で作られた風車に軽く息を吹きかけたところで、風車はレスポンス良く回転しない状態が想像できると思います。
直噴ダウンサイジング・ターボエンジンは概ね小径タービンを採用しているものの、やはり、このエンジンのネックは僅かなターボラグと言えます。
2022年現在、欧州車の多くは直噴ダウンサイジング・ターボエンジンを搭載しています。それらのエンジンのスペックを確認すると、1,000rpm~2,000rpm台でMaxトルクを出力します。
数値的にはターボラグが無いような印象を受けます。
しかし、このスペックは自動車メーカーのベンチテストのデータ。実際には、小径タービンを搭載したエンジンであっても、ゼロ発進や加速時に僅かなターボラグを感じ取ることができます。
また、小径ターボは漏れ損失(※)の問題があります。
地上を走行する自動車は停車状態から発進し、加速、減速、停止を繰り返しています。日本は人口過密で渋滞が日常茶飯事、そして信号機が多い国。自動車の車速が刻々と変化します。
このような道路交通環境において、エンジンのレスポンスが求められます。
極端な話、ビッグタービンを搭載したチューニングカーはハイカムを入れ、圧縮比を下げるため低速トルクが細く、街乗りではかったるく感じるのです。
※【漏れ損失】
小径タービンほど、タービンとターボハウジングの隙間から排気ガスが漏れる「漏れ損失」が大きくなり、過給効率が低下していきます。
細くなる地トルク
エンジンの排気量をダウンサイジングすることで、アイドリング付近のエンジントルクが細くなります。これは当然です。しかも、ターボはアイドリング状態では、ほとんど眠っています。
よって、ゼロ発進時、車種によってはダウンサイジング・ターボエンジンの地トルクが細く感じられるかもしれません。車種によって車体の動き出しが、ややもっさりした印象を受けることがあります。
これを解決するためにも、欧州車のトランスミッションは多段化が進みました。
要多段式AT、DCT/トランスミッション
多段式トランスミッションは燃費向上だけが目的ではなく、ダウンサイジング・ターボエンジンのゼロ発進時のトルク不足を補う目的の技術。
トランスミッションの1速をローギヤ化することで、アイドリング付近のトルク不足を補うことができます。
なお、多段式トランスミッションは重量増を招き、部品点数の増加による信頼性の確保が求められます。
弱いエンジンブレーキ
直噴ダウンサイジングターボエンジン搭載車は2つの理由でエンジンブレーキの効きが弱い傾向があります。
1つは、直噴エンジンはポンピングロスが低減します。よって、エンジンブレーキの効きが弱くなります。
もう1つは、直噴ダウンサイジング・ターボエンジン搭載車は車両重量に対してエンジンの排気量が小さいため、当然、エンジンブレーキの効きが弱くなります。
直噴ターボエンジンにトラックのような排気ブレーキを採用してもいいのでは?と思うものの、そのようなモデルは今のところ無いようです。
このエンジンブレーキについては、必要に応じてマニュアル操作でシフトダウンすればいいわけで、たいした問題ではありません。
いずれにしても、直噴ダウンサイジング・ターボエンジン搭載車でアップダウンが連続する都市高速道路や峠道を走行する時は、積極的にマニュアル操作でシフトダウンを活用したいもの。
エンジンオイルの黒色化、管理
直噴ダウンサイジングターボエンジンは希薄燃焼時、煤(すす)が出やすくなります。
これにより、エンジンオイルの黒色化が目につきます。なお、エンジンオイルを交換後、しばらく走行してオイルが黒色化したところで、それが即、エンジントラブルを引き起こすわけではありません。
ターボエンジンのオイル管理はNAエンジン以上に重要。多くの直噴オーナーは直噴エンジンのエンジンオイルは汚れやすい印象を受けているのではないでしょうか。
概ね、欧州車のエンジンオイルの交換インターバルは長めに設定されています。
しかし、いい意味でこれを無視して、早めのオイル交換を実施したいもの。直噴エンジンと付き合っていく上で「エンジンオイルの管理」が重要なキーワード。
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電動ターボ(スーパー)チャージャー&48V化
ターボラグはターボエンジンの宿命。
今まで、多くのエンジニアがターボエンジンの技術革新を進めてきました。排気ガスが質量を持つ金属製タービンを強制的に回転させる以上、ターボラグをゼロにすることは物理的に無理があるのです。
そこで、期待されている次世代型の技術が電動ターボチャージャー、電動スーパーチャージャー。
2016年に登場したアウディQ7には2つのターボチャージャーが搭載され、電動コンプレッサーはそれらのサポート役となっています。ドライバーのアクセル操作によって、電動コンプレッサーを回転させて過給の立ち上がりを早める新技術です。
メルセデスはV6から直列6気筒エンジンへ回帰
2018年、メルセデス・ベンツSクラスのラインアップに追加されたS450には、直列6気筒3,000ccエンジンに電動スーパーチャージャーを搭載。
メルセデスは1990年代後半、衝突安全基準等の問題から直列6気筒エンジンを廃止し、V6エンジンへ切り替えていきました。これは世界的なトレンド。BMW以外の自動車メーカーは直列6気筒エンジンからV6へ切り替えていったのです。
あれから20年以上の年月を経て、衝突安全基準をクリアするボディの設計技術が進歩したようです。またメルセデスの新型、直6エンジンは補機類の電動化によりエンジンの全長がコンパクト化しています。
直6エンジン愛好家にとって、朗報となる直列6気筒エンジンへの回帰です。
直列6気筒エンジンはV6より振動面で明らかに有利。二次振動がゼロ。また、直列6気筒エンジンは過給機の搭載や触媒の設置も楽で有利なのは言うまでもありません。
電動スーパーチャージャーを回転させるためには、従来の12Vバッテリーでは電力不足となります。そこで、48Vで発電して高い電圧を電動スーパーチャージャーに供給し、車内のメーター類やカーナビ、オーディオ等の電装品は従来の12Vで作動します。
欧州勢が提案する電動ターボ、電動スーパーチャージャーは従来のターボラグの問題を解決する新技術として、今後の動向が注目されます。
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