日本は他の先進国と比較して、人気を集めている高級車に違いがあります。
日本では、依然としてミニバンに根強い人気があります。
「The Japanese Minivan」の中で高級ミニバンと言えば、TOYOTAアルファードとヴェルファイアが挙げられます。
その人気の度合いは、年間新車販売台数データからも窺えます。
2020年、アルファードとヴェルファイアの年間新車販売台数は合計で約108,000台。両車の月間新車販売台数は平均9,000台という数字からも、日本の高価格車の中でアル/ヴェルはかなりの人気を集めていると言えます。
他方、高級車といえば、昔からセダンが定番。
しかし、日本のマーケットは2000年前後からセダン離れが進み、日本の各自動車メーカーは経営資源をセダンからコンパクトカーやミニバン、SUVの開発へとシフトしていきました。
日本のマーケットが選ぶ車のボディ形状が大きく変化してきたのです。今や、日本を走る自動車の多くはセダン以外のタイプ。
そして、今やセダンと言えば、欧州車メーカーの独壇場。メルセデス・ベンツやBMW、アウディの基本ボディは昔からセダン。
ドイツの高級セダンは日本のセダンを大きく引き離し、もはや、欧州のセダンは独走状態の様相を呈しています。
では、ドイツの高級セダンと和製高級ミニバンの特徴とメリット、デメリットを考えてみます。
なお、高級セダンと高級ミニバンの比較のため、燃費に関しては除外しておきます。大きく重い車に燃費を求めるのは酷なので。
「独」高級セダンの特徴
メリット
・ボディ剛性を高くできる
セダンはエンジンルーム、キャビン、トランクルームの3つのBOXを組み合わせるボディ形状のため3BOXとも呼ばれ、高いボディ剛性を確保しやすい特徴があります。
・車体の重心が低い
セダンの全高は1,450mm前後。車種によって全高に違いがあるものの、セダンの全高は概ね1,400mm~1,500mmの間に収まります。
セダンの全高は人間の平均身長より明らかに低く、要は、低重心。車体の重心が低いということは、車の運動性能と安全性能に多くのメリットをもたらします。
・乗降性がいい
セダンの全高は1,450mm前後のため、ドアを開けて無理なくシートに腰を降ろすことができます。
・空力がいい
セダンは全高が低いため、空気抵抗を抑えることができます。
ボディのCd値(空気抵抗係数/Constant Drag)にA値(前面投影面積)を掛けることでCdA値が導かれます。
仮に、セダンボディのCd値が少々大きくても、全高が低いためCdA値は小さな値になります。
大雑把に、正面から車を見て、小さく見える車ほどCdA値は小さく、空気抵抗が小さくなります。セダンは空力を追及しやすいボディ形状。
これは、高速走行時の安定性と燃費向上に繋がります。
・搭載可能なエンジンが幅広い
高級セダンの駆動方式はアウディを除き、伝統的にFR。
メルセデス・ベンツやBMW、マセラティ、ジャガー、ロールスロイス、ベントレー、そして、アメ車のキャデラックやクライスラー300の駆動方式はFR。
車種によっては、FRベースの4WDも用意されています。
FRレイアウトならば、直列4気筒エンジンから直列 or V型6気筒エンジン、V型8気筒、V型12気筒エンジンまで多様なエンジンを搭載できます。
・走る、曲がる、止まる性能をまとめやすい
車体の全高が低いということは、加速と減速時にピッチングが出にくく、カーブでロールしにくくなります。ブレーキング時に姿勢変化が少ないため、4つのタイヤのグリップ力を引き出しやすくなります。
つまり、セダンは安全に止まりやすくなります。
・静粛性を高くできる
セダンの車種によってはトランクスルー機能が装備されているものの、トランクルームが独立しているためリヤタイヤのパターンノイズや雨天時のスプラッシュノイズがキャビンに入りにくくなります。
・トランクを開けても外気がキャビンに入らない
ミニバンや1BOX、SUV、コンパクトカー、ハッチバックの欠点として、バックドアを開けると、冬は冷気がキャビンに入り込み、夏は蒸し暑い空気がキャビンに入り込みます。
その点、セダンであればトランクの開閉時、外気がキャビンに入ることはありません。
特に、後部座席に大切な人を乗せている場合、これは大きなアドバンテージとなります。
デメリット
・室内の天地方向の空間に限りがある
セダンというボディ形状である以上、全高に限界点があります。よって、セダンの天地方向の空間の広さはミニバンには及びません。
・トランクルームの容量に限りがある
セダンは独立したトランクルームがある以上、ミニバンやワゴンのラゲッジルームのような空間を確保することはできません。
・乗車人数は5名
セダンの乗車人数は基本的に5名。車種によっては4名。多人数で移動するならば、明らかにミニバンが優位に立ちます。
「独」高級セダンのまとめ
以上、高級セダンのメリットとデメリットを挙げてみると、セダンの全体像が見えてきます。
つまるところ、セダンボディに広大な室内空間を求めることはできないものの、セダンは自動車として最も大切な性能において、圧倒的な優位性があります。
セダンはデメリットよりメリットの方が多いボディ形状と考えることもできます。
欧州やアメリカでもSUVの人気が続いているものの、依然として高級セダンが各自動車メーカーのラインアップの中で鎮座しています。
超高級車のロールスロイスやベントレーの主力モデルは過去も今もセダン。高級を追及すると、自ずとセダンになる証なのでしょう。
「日」高級ミニバンの特徴
メリット
・室内の天地方向の空間に余裕がある
ミニバンの最大のメリットは全高が高く、室内の天地方向の空間が広いところ。ラゲッジルームに嵩張るアウトドア用品や釣り道具、スキーやスノーボード用品の積載が可能です。
・広大な足元空間を確保できる
2列目シートをスライドさせることで、広大な足元の空間を確保できます。
・乗車可能な人数が多い
当然のことながら、ミニバンは多人数乗車が可能な車。5人から車種によっては8人までの乗車ができます。
・多様なシートアレンジが可能
ミニバンの車種によっては、様々なシートアレンジが可能。長尺物や自転車の積載も余裕でこなします。
・アイポイントが高く、見晴らしがいい
ミニバンはシートポジションが高く、見晴らしがいい特徴があります。
デメリット
・ボディ剛性の確保が難しい
ミニバンというボディ形状上、開口部の面積が大きく、リヤに大型バックドアがあるため、ボディ剛性の確保が難しくなります。
・車体の重心が高い
ミニバンというボディ形状上、物理的に車体の重心が高くなります。
・空気抵抗が大きい
ミニバンのCd値を可能な限り抑えても、全高が高い以上、CdA値が大きくなります。
・走る、曲がる、止まる性能をまとめるのが難しい
全高が高い自動車は当然、重心が高くなります。
ミニバンは加速と減速時にピッチングが出やすく、カーブでロールしやすくなります。ブレーキング時に姿勢変化が大きいため、特にリヤタイヤのグリップ力を引き出すのが難しくなります。
つまり、ミニバンは止まりにくくなります。
・乗り心地の確保が難しい
全高が高い自動車は重心が高いためロールしやすく、急カーブで横転リスクが高まります。また、ミニバンで高速道路を走行中、強い横風を受けると車体がふらつきやすくなります。
対策として、4つのサスペンションのスプリングレートを高くせざるを得ません。同時に、ショックアブソーバーの減衰力も合わせて高く設定する必要があります。
更に追い打ちをかける問題として、V6エンジンを搭載するFFミニバンともなると、重い「V6エンジン」に「多段AT」、「デファレンシャルギヤ」の重量がフロントタイヤ2本に加わります。
これらの重量物を支えるために、更にフロントサスペンションを固める必要があります。要は、ゾウのような重い巨体には、太い踏ん張る足が必要なのです。
すると、フロントサスペンションに対して、リヤサスペンションが柔らかいアンバランスなセッティングになります。
これにより、フロントタイヤのハブベアリングを中心にリヤ周りのピッチングが出やすくなってしまいます。ピッチングは乗員の車酔いの原因にもなります。
そこで、リヤサスペンションも固くせざるを得ないのです。
このような負の連鎖が続くため、ミニバンの乗り心地を確保し、上質な乗り味を実現するのは難しくなります。
・車重が重い
ミニバンはボディの構造上、明らかに車重が重くなります。そして、ミニバンに付きものの電動スライドドアは車重を重くします。更に、ミニバンはガラスの面積も大きく、それも重量増の一因となります。
「日」高級ミニバンのまとめ
そもそも、ミニバンはアメリカや欧州で商用車として使われてきました。また、ミニバンは送迎用車両として使われてきた歴史があります。
かつて、日本に輸入されていたアメ車のシボレー・アストロは商用車に豪華な内装が与えられたミニバン。
当時、日本の自動車メーカーはアストロから商品企画のヒントを得たのかもしれません。
和製ミニバンのような商品企画は世界的に珍しく、TOYOTAアルファードやヴェルファイアのライバル車は海外で見当たらないのです。
それほど、独自に進化してきた日本のミニバンは国際的に特異な存在。外国人からすると、日本のミニバンから、何とも不思議なムードを感じることでしょう。
ミニバンのメリットとデメリットを総合的に勘案すると、自動車は高速で移動する乗り物である以上、ミニバンは使用目的によっては、メリットよりデメリットが顔を出します。
ミニバンは物理的に重心が高いためロールしやすく、横風に弱い弱点があります。地震発生時や台風の上陸時、2階建ての家は平屋の家より揺れやすいのと同じ。
メルセデスのEアクティブ・ボディ・コントロール(E-ACTIVE BODY CONTROL)のような高度なサスペンションは別として、横風のような外乱に対して、電子制御でどうにかなるものではありません。
この車種のサスペンション・セッティングはかなり難しいものと推察され、ミニバンに上質な乗り心地、乗り味を求めるのは酷なのです。
本質的にミニバンはいかように設計しても、物理の法則に支配されている以上、高級車とは言い難いカテゴリーの自動車。
しかし、日本の自動車メーカーは高級感を上手に演出してしまうところに、日本人のしたたかさと器用さが垣間見えます。
日本の自動車マーケットの特異性
日本の自動車マーケットは摩訶不思議な世界。
過去のブームを振り返ってみると、人気を集めてきた車に何らかの脈絡があるわけではなく、その時代の空気感によって人気車種が大きく変遷してきました。
ハイソカーブーム
1980年代から1990年代にかけて、日本ではハイソカーがブームでした。ハイソカーは全高が若干低く、キャビンが小さくデザインされた4ドアハードトップセダン。
当時、4ドアハードトップボディにスーパーホワイトのボディカラーがキラキラと輝いていました。
管理人が当時のTOYOTAマークⅡの後部座席に乗り込んだ瞬間、屋根が低く、足元の空間は2ドアクーペレベルで不思議な感覚を抱いた記憶があります。
スペシャリティーカーブーム
管理人が20代の頃、NISSANシルビア(PS13)を所有していました。ボディのデザインが流麗で、今でも古さを感じさせません。コンパクトで軽量なボディに直列4気筒 DOHC 2.0L NAエンジン(SR20DE)を搭載し、動力性能は必要十分でした。
PS13のキャラクターはデートカーとも言われ、ちょっとスポーティーながらスポーツカーとは異なるものでした。
RVブーム
1990年代、三菱パジェロ、スバル・レガシィ、トヨタRAV4といったRVブームがありました。
当時、パジェロは大柄な車体に見えたものの、友人の2代目パジェロのリヤシートに座った管理人は意外な狭さを感じた記憶があります。
そして、従兄弟の友人のレガシィ・ツーリングワゴンのリヤシートに座った管理人は「何で、こんなに乗り心地が悪いの?」と思った記憶があります。
管理人は一時期、初代TOYOTA RAV4を所有していました。
初代RAV4は軽量ボディに大径タイヤを履いたモデルでSUVの先駆け的な車でした。バネ下で大径タイヤがややドタバタしていたものの、高速道路の直進性が優れた車でした。
ミニバン、SUVブーム
1990年代からミニバンに注目が集まり、当時、流行した三菱パジェロやトヨタ・ハイラックスサーフ等の4WDが街中から潮が引くようにどんどん消えていきました。
そして2,000年代に入り、SUVへの人気が高まってきました。それと同時にトヨタ・アルファードとヴェルファイアのような高級ミニバンの勃興が始まったのです。
日本の自動車マーケットは幾多の変遷を経て、スパイラル的とも言えるブームを繰り返してきたのです。
「独」高級セダンと「日」高級ミニバンの「高級のベクトル」がまったく違う
管理人がつらつらと呟いたとおり、高級セダンと高級ミニバンはそれぞれ特徴があります。これらはカテゴリーが異なるため、同じまな板に乗せて比較はできません。
高級革靴と高級スニーカーを比較して、「どっちがいい?」とは言えないのと同じ。
比較内容を「車としての運動性能と乗り心地、乗り味を含めた高級感」に絞ると、明らかに高級セダンの方が運動性能が高く、乗り心地、乗り味が良く、フォーマルで高級です。
元々、セダンはフォーマル。
対する、日本のミニバンからカジュアル感が伝わってきます。
フォーマルな「独」高級セダン
ファッションに例えてみると、高級セダンは仕立てのいいスーツに足元は内羽根ストレートチップの革靴。ビシッと決まったフォーマルスタイル。
質の高いウール素材は独特な光沢と風合いがあり、スーツ全体に立体感があります。
ちょっとお腹が出てきた中年おじさんでも、スリーピースのスーツをまとうことで、お腹周りを引き締めてビシッと決めることができるのがスーツ。
カジュアル感がある「日」高級ミニバン
対する、日本の高級ミニバンからカジュアル感が伝わってきます。ややフォーマルな要素が入っているカジュアル感なのです。
艶のあるライダースジャケットにストレート or スリムフィットパンツ、足元はシルバーのスニーカー、そして、シルバーのアクセサリーで決めているような印象を受けます。
そもそも、ミニバンの生い立ちは商用車。そして、ミニバンは多人数乗用車。
日本の自動車メーカーは従来のミニバンに付加価値を加えるために、目立つボディデザインと豪華な内装を与え、フロントマスクにキラキラと輝く大型メッキパーツを配置しています。
なんとも、日本のミニバンからEXILEのファッションを彷彿とさせるようなムードが漂っています。
まとめ
自動車は操縦安定性に乗り心地、燃費、安全性などの機能性にプラスして、おしゃれ感、カッコ良さが求められるため、商品企画の難易度が非常に高い工業製品。
機能性に関しては、「独」高級セダンが圧倒的に優位に立ちます。地球上の物体には物理の法則が働いている以上、過去も今、そして未来もセダンは高い機能性を与えやすいボディ形状。
理詰めで考えると、セダンは自動車に必要とされる性能を満たしやすいボディ形状。
しかし、日本のマーケットには、自動車の理論的な機能が全てとは考えない消費者もいます。
大柄なボディサイズと広くて豪華な内装、そして各所にトレンド感が散りばめられていて、キラキラと光る大型メッキパーツを好む層が少なくないからこそ、アルファードとヴェルファイアのセールスが好調なのかもしれません。
ちなみに、アルファードとヴェルファイアは香港やタイ王国、インドネシアに輸出されています。
これらの国々では、輸入車に課せられる初回登録税や関税が非常に高いものの、現地の富裕層から日本のミニバンが支持されているようです。
どうやら、和製高級ミニバンは、アジア人の心を鷲掴みする不思議な魅力があるようです。
以上のように、「独」高級セダンと「日」高級ミニバンは「高級のベクトル」がまったく違うのです。
どちらがいい、よくないの問題ではなく、各自動車メーカーはビジネスとして車を製造している以上、メーカーも販売ネットワークも売れる車がいい車。
理詰めで設計開発、製造されている「独」高級セダンとトレンド感を形にしている「日」高級ミニバンを比較すると、車づくりのバックグラウンドと方向性が明らかに異なります。
繰り返しとなるものの、管理人は車としての機能性が優れていて、乗り心地、乗り味が快適な高級車はセダンに軍配が上がると思うのです。
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