2000年代に入り、油圧パワーステアリングがフェードアウトし、電動パワーステアリングを採用する自動車が増えていきました。
今や、軽自動車からコンパクトカー、ハイブリッドカー、ミニバン、SUV、スポーツカー、欧州のセダンまで、ほとんどが電動パワーステアリングを採用しています。
もはや、油圧パワーステアリングは絶滅危惧種として、過去のステアリング機構となりつつあります。
ではなぜ、パワーステアリング機構は油圧パワーステアリングから電動パワーステアリングへ切り替わったのでしょうか?
そして、油圧パワーステアリングと電動パワーステアリングのメリットとデメリットを改めて押さえておきます。
油圧パワーステアリングから電動パワーステアリングへ
油圧パワーステアリング採用車には、通称パワステポンプと呼ばれるパワーステアリングポンプがエンジンブロックに補機類として装着されています。
エンジン始動後、Vベルトでパワステポンプ内部のローターを回し、パワステオイルを圧送しています。
昭和の時代は「重ステ」から「油圧パワーステアリング」へ切り替わった時代。油圧パワーステアリングを採用していた時代はかなり長かったと言えます。
そして、平成の時代は「油圧パワーステアリング」から「電動パワーステアリング」へ切り替わった時代。
令和に入り、新車に装着されているパワーステアリングと言えば、電動パワーステアリング。
2009年頃からエコカーの開発競争にゴングが鳴り、燃費を良くするための様々な技術が自動車に投入されてきました。それらの技術の中の1つが電動パワーステアリング。
電動パワーステアリングを採用する大きな理由は燃費対策。TOYOTA THS2を搭載するハイブリッドカーは状況によりエンジンが停止するため、電動パワーステアリングが必須となります。
また、運転支援システムや将来の自動運転を視野に入れると、電動パワーステアリング以外はありえないのです。
しかし、絶滅危惧種の油圧パワーステアリングはデメリットだらけとは言えず、電動パワーステアリングはメリットだらけとも言えません。各機構にはメリットとデメリットがあります。
油圧パワーステアリング
メリット
油圧パワーステアリングの最大のメリットはステアリングフィール(操舵感)が優れているところ。
そして、ステアリングインフォメーションが豊富で、路面状況がステアリングホイールに伝わりやすくなります。(重ステよりはインフォメーションが減少します。)
油圧パワーステアリングのメリットをまとめますと、
・ステアリングフィールがいい
・ステアリング・インフォメーションが豊か
デメリット
油圧パワーステアリングのデメリットは燃費の悪化。
エンジン始動後、Vベルトでパワステポンプ内部のローターを回し、パワステオイルを圧送しています。
車が直進状態の時、パワステは不要。しかし、エンジン始動後、パワステポンプを回し続ける以上、そこにエネルギーの無駄が発生しています。
次に、アイドリングストップ時、油圧パワーステアリングでは、ステアリングアシストがゼロになってしまいます。ステアリングホイールが一気に重くなってしまうのです。
そして、油圧パワーステアリングはレーンキープアシストのような運転支援システムや将来の自動運転に対応できません。
油圧パワーステアリングのデメリットをまとめますと、
・燃費の悪化
・アイドリングストップに対応不可
・運転支援システムに対応不可
電動パワーステアリングの種類
パワーステアリング事業で世界シェアのトップに君臨する株式会社ジェイテクト/JTEKTは世界で初めて電動パワーステアリング(EPS : Electric Power Steering)を開発したメーカーとして知られています。
今や、自動車にとってデフォルトの電動パワーステアリング。電動パワーステアリングは大きく「コラムアシストタイプ」と「ラックアシストタイプ」に分かれます。
コラムアシストタイプはAセグメントとBセグメントに採用され、ラックアシストタイプはAとBセグメントを含むCセグメント以上に採用されています。
操舵感/ステアリングフィールは「コラムアシストタイプ」<「ラックアシストタイプ」の関係にあります。
コラムアシストタイプ(by JTEKT)
ラックアシストタイプ(by JTEKT)
ピニオンタイプEPS
デュアルピニオンタイプEPS
ラックダイレクトタイプEPS
ラックパラレルタイプEPS
電動ポンプタイプ油圧パワーステアリング
電動ポンプタイプ油圧パワーステアリング(H-EPS)PDFファイル
電動パワーステアリングのメリット、デメリット
メリット
車が直線道路を走行中、ステアリングはほぼ中立位置で静止状態。この時、パワーステアリングによるアシストは不要です。
そこで、ステアリングホイールを動かす時のみ、電動パワーステアリングのモーターに電気を流してステアリング機構をアシストする仕組み。これにより、燃費を良くすることができます。
次に、アイドリングストップ時でも、電動パワーステアリングは問題無く機能します。
更に、電動パワーステアリングであるからこそ、レーンキープアシストのような運転支援システムや将来の自動運転に対応できます。
電動パワーステアリングのメリットをまとめますと、
・燃費がいい
・アイドリングストップに対応
・運転支援システムに対応
電動パワーステアリングのデメリット
自動車の点検や車検で代車をドライブすると、車種毎にステアリングフィールが異なることに気付きます。レンタカーやカーシェアリングの車の運転時も同様です。
ステアリングホイールの操舵感を言葉で表現するのは難しいものの、N付近(ステアリングのセンター付近)でステアリングが固着気味になったり、僅かにステアリングホイールを動かした瞬間に壁感(重さ)を感じ、次の瞬間に軽くなってしまう車種があります。
ステアリングが壁を越えて一気に軽くなるようなフィーリングなのです。
また、コーナリング中、ステアリングホイールの保舵力が必要とされる車種もあります。これは、ステアリングがN付近に戻ろうとする力が強いため。
更に、電動パワーステアリング搭載車の中には、路面状況がステアリングホイールに伝わってこない車種があります。あたかも、ゲームセンターのカーレースゲーム的なステアリングフィールなのです。
2019年現在、電動パワーステアリングはまだ発展途上のパワーステアリング機構と言えます。
電動パワーステアリングのデメリットをまとめますと、
・まだステアリングフィールが発展途上
優位に立つ欧州車の電動パワーステアリング
ちなみに、メルセデス・ベンツのモデルによってはドライブモードを選択できます。
「コンフォート」「エコ」「スポーツ」「スポーツ+」「インディビジュアル」の中から好みのモードを選択すると、ステアリングフィールと重さが微妙に変化します。電動パワーステアリングだからこそ、これを可能としています。
更に付け加えておきますと、メルセデスのみならず、欧州の車は電動パワーステアリングのセッティングにも余念がありません。
一例として、VWゴルフは現地では大衆車ながら、電動パワーステアリングのセッティングにも手抜きがありません。
電動パワーステアリングの操舵感はカタログでは表現できない、目に見えない性能ながら、UIとしてとても大切な性能。
ドライバーは運転中、常にステアリングホイールを握っている以上、何か操舵感がおかしく、路面状況が手のひらに伝わってこないと、バーチャル感を抱きます。ドライバーによって感じ方に違いがあるものの、リモコン的な操舵感では安心感を得られないのです。
そして、電動パワーステアリングのセッティングが優れている車で長距離ドライブしても、腕や肩に疲労が残りにくいのです。
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