仏国、フランスに続き、イギリス政府は2017年7月26日、2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を全面禁止すると発表しました。
オランダやノルウェーでは2025年以降のガソリン車とディーゼル車の販売禁止を検討する動きもあるようです。ドイツでは2016年秋、2030年までにガソリン車などの販売を禁止する決議が国会で採択されています。
そして、2020年2月4日、英国のジョンソン首相はガソリン車とディーゼル車の販売禁止を5年前倒しにすると表明。
欧州では、脱ピストンエンジンの機運が高まっています。
管理人は「いくら何でも・・」と、冷静にニュースを眺めていました。
仏国、英国よ、日本のEVがお手本だよ
日本では2009年、三菱自動車がi(アイ)をベースにモーターとバッテリーを組み込んだi-MiEV(アイ・ミーブ)を発売しました。翌2010年、日産自動車がリーフを発売開始。
2010年以降、中小企業も一斉に電気自動車に飛びついていきました。
当時、マスコミが連日のように電気自動車の可能性について報道していました。中には「電気自動車の時代がすぐにやってくるのでは?」と早合点した人も多かったのではないでしょうか。
その頃、管理人は非常に冷静に報道を眺めていました。
その後の電気自動車の普及については・・・、言うまでもありません。
3.11以降、EVはトーンダウン
2011年の3.11まで、日本国内で原子力発電所の電気が余っていました。ご存知、原子力発電所は火力発電所のように電力需要に応じて発電能力のコントロールが難しいのです。
そこで、夜間電力を有効活用するためにも、電力会社の推進の下、電気自動車に期待が向けられていたのです。
そして2011年3月11日、東日本大震災の発生以降、日本の原発の稼働が一斉に停止しました。それ以降、電気自動車(EV:Electric Vehicle)はトーンダウンしていったのです。
EVは本当にエコロジー&エコノミー?
発電所で液化天然ガスや化石燃料、石炭を燃やし、ボイラーで高温、高圧の蒸気を発生させ、タービンで発電機を回して発電して高圧電線に電気が流れていきます。
日本全国には数多くの変電所が存在しています。
交流の電気は幾多の変電所を経由し、電柱にぶら下がっているトランスで変圧されて各家庭に電気が供給されています。
発電所で電気が発電されて各家庭に電気が届くまでに、目に見えない送電ロスが発生しています。
もちろん、送電線の電気抵抗はゼロではありません。トランスでは必ずロスが発生し、それは熱エネルギーに変換されて大気中に消えています。
トランスは関所のようなもので、電気が通る度に税金が徴収されて、電気自動車の充電器でも税金が徴収され、懐(電気)がどんどん寂しくなっていくのです。
2017年7月に発表されたトヨタ・カムリの新型2.5ℓエンジン+THS2は熱効率が40%を超えています。
発電所で電気を発電して多くの関所を通過してEVのバッテリーを充電するのと、エンジンで燃料を燃やして運動エネルギーに変換するのと、どちらがエネルギー効率がいいのでしょうか?
きちんと計算されたデータがあれば、管理人は是非とも拝見したく思います。
電気自動車の現状
電気自動車は高価なリチウムイオン電池を搭載するため、それが車体価格を大きく押し上げています。2022年現在、EVの航続距離はガソリンやディーゼル車には到底、及びません。
冬場、EVのヒーターを作動させると消費電力が増加するため、更に航続距離が短くなります。
EVのバッテリー充電には時間を要し、充電スポットは限られています。現時点では、EVで中長距離の走行は事実上、不可能なのです。
バッテリーの劣化問題
更に、EVに搭載されているリチウムイオンバッテリーの劣化問題があります。
事実、日産リーフ初期型の中古車価格が暴落しています。
バッテリーの劣化により航続距離が短くなり、冬はヒーターを使用するため、更に航続距離が短くなります。
バッテリーを満充電(バッテリー劣化を考慮し、実際は80%ほどまで充電)しても、航続距離が150km前後であれば、近距離専用と割り切るしかありません。
日本の大都市で車の2台所有は難しく、それどころかオーナーは車を手放してカーシェアリングへ流れている時代。
週末の買い物やレジャーのみならず、日帰り旅行やお盆、年末年始の帰省まで1台の車でこなす必要があります。
冬季、EVの航続距離が150km前後では、「じゃ、いらない」となるのです。
電気自動車の購入時、補助金を差し引いても300万円台後半。新車でEVを購入後、1年後の下取り価格が新車価格の半値あたりまで暴落するケースは珍しくないのです。
2022年現在のバッテリー技術で、電気自動車の大幅な普及は不可能と言っていいでしょう。
暖房と航続距離の問題
EV開発における大きな問題の1つとして、冬季の暖房使用による航続距離の低下が挙げられます。
当然ながら、EVにはエンジンのような熱源が存在しません。よって、バッテリーの電源で熱を作り出す必要があります。EVのヒーターはPTCヒーター、ヒートポンプ、燃焼式ヒーターの3種類。
・PTCヒーター
抵抗に電気を流し、熱を発生させる。空気を加熱するタイプ(電気ストーブに近い構造)と水を加熱して温水で空気を暖めるタイプ(電気式温水暖房に近い構造)の2種類。
メリットとして、ユニットのサイズがコンパクト。
デメリットとして、消費電力が大きい。
・ヒートポンプ
ヒートポンプ式は家庭用のエアコンと同じ原理。
メリットとして、PTCヒーターより消費電力が小さい。
デメリットとして、外気温が氷点下になると暖房性能が低下する。
・燃焼式ヒーター
灯油、軽油、ガソリンなどを燃焼させるヒーター。キャンピングカーなどに設置されている。
メリットとして、暖房の効きが強力。
デメリットとして、燃料タンクと燃料を補給する手間が必要。CO2を排出する。
AAAのテスト
米国のAAA(日本のJAFに相当する組織)が5車種のEVで暖房使用時の航続距離をテストしたところ、航続距離が大幅に短くなる結果が出ています。
米国のAAA(日本のJAFに相当)がテスラ・モデルS 75D、日産リーフ、BMW i3、シボレー ボルト、フォルクスワーゲンeゴルフの5車種で暖房使用時の航続距離の変化をテストしたところ、外気温-7℃で暖房使用時の航続距離は24℃の時と比較して40%以上、短くなる結果が出ています。
(出典)engadget
内燃機関であれば、エンジンという大きな熱源があるため、80~90℃の冷却水をヒーターコアに循環させ、ブロアファンを回転させるだけでヒーターとして機能します。
エンジン車両は暖房使用時、ブロアファンを回転させるだけのシンプル設計で消費電力が小さく、燃費への影響はほどんど無視できます。
しかも、エンジン車両の暖房は超強力なため、外気温が-20℃~-30℃まで低下しても問題無く機能します。
EVの暖房を内燃機関のそれと同等レベルで機能させるには、大容量バッテリーと消費電力の小さいヒーターが求められます。
英国の目論見
英国の自動車メーカーはロールスロイス(BMW傘下)、ベントレー(フォルクスワーゲングループ傘下)、ジャガー(タタ・モーターズ傘下)、アストンマーティン、ランドローバー(タタ・モーターズ傘下)、MINI(BMW傘下)。
この中で、アストンマーティンは1970年代にDBグループの経営が破綻し、経営の実権が長らく幾多の実業家の間を転々としてきました。
要するに、英国の全ての自動車メーカーは、独力での自動車生産が立ち行かなくなってしまったのです。英国の自動車メーカーは、同業の資本と技術提供無くして、自動車を生産することができないのが現状なのです。
だからこそ、英国はCO2、環境問題にかこつけて内燃機関車を全面禁止し、EV化を推進することで活路を見出そうという目論見があるのかもしれません。
EVならば、複雑なピストンエンジンやAT、DCT、CVTのような変速機は不要。ボディにサスペンション、タイヤ、バッテリー、モーター、制御システム、ブレーキ、空調、そして、英国のお家芸であるインテリアを組み込めばEVの完成です。
そんなビジョンが見え隠れするのが今回の英国政府のアナウンスメントなのです。
欧州のEV化は失敗する可能性が高い
いずれにしても、EVの普及を成功に導くためには次の要素が必要です。
・安価で大容量バッテリー
・ピストンエンジンと同等の航続距離
・短い充電時間
・充実した充電スポット(インフラ整備)
更に、住居や月極の駐車場に充電設備を設置する必要があります。一戸建てならば、充電設備の設置は可能でしょう。
問題は、既存のマンションなのです。
既存のマンションの駐車場に充電設備を設置するとなると、幾多の困難が待ち受けています。
更に、分譲マンションと賃貸マンションでは、管理組合の運営スタイルが異なります。都市部のマンションの住人は、自動車を所有しない人も多く、話は簡単に進まないでしょう。
ここで、マンションの管理組合の関係者は大きく頷いているかもしれません。既存のマンションにEVの充電設備の設置なんて、簡単な話ではないのです。
そして、月極駐車場の地主は駐車場にEVの充電設備を設置しなくても、当分は賃借人には困らないのです。
EVの普及には、夢の超ブレイクスルーが必要
2022年現在、リチウムイオン電池の性能を大幅に上回るバッテリー技術は確立していません。
EVを普及させるためには、第一に大容量バッテリーが不可欠。
そして、第二に短い充電時間。
液体燃料であれば、ガソリンスタンドでの給油時間は数分程度。この利便性を考えると、バッテリーの充電時間は、せめて10分以内に収めたいところ。
しかし、二次電池の世界で10分以内の充電時間なんて、ハイパー急速充電の世界。
そのような夢の夢のようなバッテリーを開発するためには、従来の常識を覆す技術的な超ブレイクスルーが必要でしょう。
EVの歴史はピストンエンジン車より長い
実は、EVの歴史は内燃機関を搭載する自動車より長いのです。ある意味、EVはガソリンやディーゼル車の先輩。
しかし、21世紀の今をもってしても、EVはほとんど普及していないのです。EVの活動の場は、ゴルフ場や生産工場、物流倉庫、遊園地等の特定敷地内に限定されています。
これが、全てを物語っています。
これほどまでに、電気自動車の普及が困難であるのに、荷物を10t、20tも積載する大型電気トラックの普及が可能なのでしょうか?
大型電気トラックは、ディーゼルエンジンを搭載する大型トラックと同等の航続距離を確保できるのでしょうか?輸送品の冷蔵と冷凍が可能なのでしょうか?
そして、時間と闘う物流の世界で、30分の充電時間を容認できるのでしょうか?もし、充電器の前に先客がいると、運転手は充電が終わるまで30分間、待つ必要があるのです。
遠い将来、もしこのブログが機能しているのならば、また読み返してみたいものです。
[追記]
2017年8月8日の日経新聞の朝刊によると、GSユアサが電気自動車の走行距離を2倍に伸ばす新型電池の量産を2020年に始めるようです。新型電池は正極材と負極材の素材配合を変えて多くのリチウムイオンを貯められるようにして容量を増やすそうです。
2017.08.08
[追記2]
2020年2月4日、英国のジョンソン首相は、2035年からガソリン車とディーゼル車の販売禁止を表明しました。当初の5年前倒しです。ハイブリッドカーもガソリンエンジン車に含まれるため、今後の動向が注目されます。
2020.2.05
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