よく、
「あのクルマの乗り心地はいい。」
「乗り心地が良くない。」
といった声が世間で飛び交っています。
シルバー世代は「あのクルマはクッションがいい~。」と評価します。
では、自動車の「乗り心地」、言い換えると「乗り味」とは、いったい何でしょう?
自動車の乗り心地、乗り味とは一体、何?
実は、自動車の乗り心地の厳格な定義は存在していないと思います。答えは一つではないようです。
世界のメルセデス・ベンツが考える乗り心地の良さと、世界のトヨタ自動車が考える乗り心地の良さには明らかな違いがあります。
ここで、どちらのメーカーがいい、悪いと結論を出すことはできないと思います。
管理人は自動車の乗り心地を検証するために、タクシーに乗る際、意図的に個人タクシーを狙って乗車する時があります。乗りたい個人タクシーが見つかるまで周囲を探す時もあります。
東京都内の個人タクシーはクラウン・ロイヤル(Hybrid)が多い印象を受けます。
では、クラウン・ロイヤルの乗り心地とは?
トヨタが考える乗り心地
TOYOTAクラウン・ロイヤル(210系)の乗り心地
トヨタのクラウン・ロイヤル(210系)の乗り心地を一言で表現するならば、和製ジャガー的。
クラウン・ロイヤルは音と振動のNVH(※)が徹底的に抑えられていて、ロイヤルHybridの車内は超が付く静けさ。ロイヤルの後席に乗り込むと、一瞬、「自分の耳が難聴になったか?」と思うほど。
ロイヤルHybridの車内はメルセデスやBMW、アウディより静粛性が高いかもしれません。
クラウン・ロイヤルの乗り心地は、あたかも車体と路面の間に分厚い空気の層が挟まっていて、ふんわりとした乗り味。車体が宙に浮いているような印象を受けます。
これは、極上の乗り心地のように感じるかもしれません。
自動車の乗り心地、乗り味を「クッション」と呼ぶような世代はクラウンに乗るとコロッと気持ちが傾くかもしれません。そのあたりのトヨタのマーケティングとセットアップは上手だと思います。
事実、メルセデスよりクラウン・ロイヤル系の乗り心地を好む層も多いかもしれません。
(※)NVH
Noise(ノイズ), Vibration(バイブレーション), Harshness(ハーシュネス)の略。
ノイズは騒音、バイブレーションは路面やエンジンから伝わってくる振動、ハーシュネスは路面の繋ぎ目や段差を通過した時、伝わってくる振動。
クラウンのサスペンション・セッティングは「アリ」
管理人はクラウン・ロイヤル(210系)のサスペンション・セッティングは100km/h以下の速度域では「アリ」だと思います。車体のロールや姿勢変化があっても、要は車体が安定していればいいと思うのです。
なお、ロイヤルがハイスピードで荒れている路面のアンジュレーションを通過すると、ボディの上下動がやや大きく、ボディの抑えが不足しているような印象は受けます。これは、ロイヤルは低速域の乗り心地を優先しているからでしょう。
夜の個人タクシーはバンバン飛ばすため、車の乗り心地が如実に分かります。だから、管理人は意図的に個人タクシーを狙って乗車するのです。
では、メルセデス・ベンツの乗り心地はどうでしょう?
メルセデス・ベンツが考える乗り心地
メルセデス・ベンツを含む欧州車が理想とする乗り心地はフラットライド。メルセデスの乗り味は伝統的にショックアブソーバーのダンピングが効いています。
路面変化があっても、ボディは可能な限りフラットな状態をキープ。もちろん、路面は荒れていて凸凹の連続のため、ボディも上下動を繰り返しています。
しかし、メルセデスのボディは走行中、上下動が小さい傾向があります。
このボディの上下動はCクラス、Eクラス、Sクラスの順で小さくなる傾向があります。これは、管理人が経験していますから断言できます。
メルセデスも車種によって乗り心地に違いがあるため、一概には言えません。ただ、基本的なサスペンション・セッティングの考え方、方向性はメルセデス流と言っていいのではないでしょうか。
2007年、メルセデス・ベンツCクラス(W204)の登場以降、メルセデスのサスペンションは乗り心地と操縦安定性を高いレベルで両立させつつ、車体のロール量が少なくなっています。
それでも、街中の低速域での乗り心地を確保しつつ、峠道ではスポーティーな走りも可能。
また、メルセデスのボディは伝統的に空力が良く、一定以上の速度域でダウンフォースが発生するのか、高速道路では路面に張り付いているような安定感が秀逸。
雨天時の高速道路では、ボディ表面の流れる空気を利用して、雨滴が後方に流れていきます。ガラスにレインエックスを塗布しておけば完璧です。
おじいちゃん、おばあちゃんでも分かる乗り心地
自動車に関して、ほとんど知識が無い人でも乗り心地を体感できます。
後席におじいちゃん、おばあちゃんを乗せて長距離ドライブすると、声を揃えてメルセデスの乗り心地を高く評価します。
メルセデス・ベンツの乗り心地は明らかにクラウン・ロイヤルより硬め。Aクラス(W176)やCクラス(W205)のサスペンションは明らかにクラウンより硬め。メルセデスのサスペンションはダンピングが効いていて、明らかに筋肉質な足。
それにも関わらず、高齢者を乗せて長距離を走行して、「体の疲れが少ない、車体の揺れが少ない」と評価するのはメルセデスなのです。高齢者の体は計測器以上のセンサーを持っているようです。
世の中、フロントシートの乗り心地はまずまずでも、リヤシートの乗り心地は今一つの自動車は数多く存在しています。前席と後席のどちらに着座しても、乗り心地に大きな違いが無いのがメルセデスと言えるでしょう。
サスペンション設計が最も難しいのでは?
管理人は今まで所有した自動車を含めて、数多くの自動車のステアリングを握ってきました。各自動車に様々な思い出があります。
それらの中で、スポーツカーやスポーティーな自動車は操縦安定性を優先させているため、多かれ少なかれ乗り心地が犠牲になっています。逆に、乗り心地を優先させた自動車は操縦安定性が犠牲になっています。
今までドライブした日本車の中で、乗り心地と操縦安定性が高いレベルで両立している自動車は存在しませんでした。もちろん、中には優秀な日本車が存在しているかもしれません。
自動車のサスペンションには、あらゆる性能が求められます。
それら複数の相反する要素を高次元でバランスさせるのは非常に難しいと思います。また、相当のコストと時間がかかるのは想像に難くありません。
自動車メーカーの実験室で各データを取り、最終的に一般公道から高速道路、ニュルブルクリンクのような過酷なサーキットを徹底的に走り込むことで、レベルの高いサスペンションが出来上がっていくのでしょう。
ちなみに、ロールスロイスもニュルブルクリンクを走り込んでいるようです。
路面は天候によっても刻々と変化するため、ウエット路面や雪道でも車体が安定していれば、乗員は快適に移動できます。特に、雪道は雪質によってμが刻々と変化します。
ドライ路面に特化したサスペンション
ドライ路面に特化してサスペンションをセットアップすると、足が硬くなる傾向があります。よって、μの低い路面でタイヤのグリップ力が低下します。一部のBMWはそのような傾向があります。
サーキットを周回して、サスペンションがセットアップされた自動車は得てして雪道が苦手になります。
一口に雪道と言っても、関東から関西の平野部に降る雪と東北&北海道の雪質は異なります。雪道は状況によって、新雪、圧雪、シャーベット、アイスバーンへと変化し、走行中の路面のμは秒速で変化します。
足が硬い自動車で雪道のそろばん道路に差し掛かると、タイヤが路面から断続的に浮き気味になるような感覚すら受けます。
実際、タイヤが路面から断続的に浮き気味になっているのかどうかは定かではありませんけど、ドライバーは感覚的にそのような印象を受けます。
その時、タイヤのトラクション性能が低下しているため、加速しにくく、曲がりにくく、減速しにくくなります。
μの低い路面に特化したサスペンション
逆に、μの低い路面に特化してサスペンションをセットアップすると、サスペンションストロークが長く、足が柔らかめになる傾向があります。
足を柔らかくすると、低μ路でのタイヤの接地性がアップし、グリップ力の向上に繋がります。雪道のそろばん道路では、しなやかなサスペンションの方がタイヤのグリップ力が高まります。
反面、そのような足では高い速度域でボディの動きが大きくなります。
二律背反の世界
サスペンションも、あちら立てればこちら立たずの二律背反の世界。乗り心地(乗り味)と操縦安定性の両立は容易ではないことが見えてきます。
二律背反の複数の要素を高次元でバランスさせたサスペンションは非常に奥が深い世界と言えます。
エアサス搭載車両は別として、サスペンション形式とアーム類、スプリング、ショックアブソーバー、ブッシュの要素をいかに料理するかで乗り心地、乗り味が左右されます。
メルセデスとクラウンのサスペンション設計には違いがあり、サスペンション・セッティングの答えは1つだけではありません。そして、乗り心地、乗り味に対する好みも人それぞれ。
もちろん、自動車の乗り心地はタイヤによっても随分と変わってきます。
答えが1つだけではない車の乗り心地、乗り味のセットアップは永遠のテーマではないでしょうか。
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